1週間前に指輪を失くした。
帰り道、地下歩道のどこかで落としたようだった。思い当たる場所を何度も何度も往復し、そらもう不審者並みに、道幅の端から端まで、かがんだり立ち止まったりしながら次の日もその次の日も探したが、見つからなかった。10年前にもらった指輪だった。
失くしたその日、わたしは自分でもびっくりするくらいに泣いた。漫画とかでよくある、「う」に濁点ついてるみたいな声が出た。悲しくて悔しくて泣くときは、こんな風だったっけ、と思い出した。
もう見つからないとうなだれて、いつも指輪をつけていた右手小指には、パンの袋を閉めるのによく使われる、ねじり止めみたいな針金を巻いていた。頭がおかしい。
そして昨日も、いつものとおり地下歩道を歩いて帰っていた。指輪を落としてから既に1週間たっており、この喪失感は時間が解決するだろうと思われた。ヘッドホンから流れる音をぼんやり聴きながら、わたしはそのときなぜか、いつもよりも少し左側に寄り、そしてなぜか下を向いたのだった。すると、
か、、、
神さま!!!!
わたしの指輪が、ちょうど、ちょうど、本当にちょうどそこに、落ちていたのである。
こんな人通りの多い地下歩道。失くしたその日から、今の今までここにあったはずがない。何度も何度も通って探した場所だった。なんたること。
!!!!!!!!!!
何かが、見えない何かが本当にあるならば、この日のわたしに、いやこの場所に、それが降臨したことは間違いない。これが宗教ならもう間違いなく入信、出家レベルだ。恐ろしい。
しばらく放心し、家に着いて嬉しくて泣いた。そういえば、嬉しくて泣くときはこんな風だったっけ、と思い出した。