たまたま満開の桜に遭遇できたとて、それを満喫するのはなかなかむずかしい。桜は通り過ぎるものだとわかってる。そんなことを毎年繰り返し思っていたある春の夕方、満開の桜に出会った。
桜の木はそこに1本しか無かったと思うけど、なんともまあ見事に満開で、暖かい風に吹かれてそこら中を花びらが舞い、大粒の雪みたいだなと確かに思った。そしてすぐ、この表現はなんとも月並みだなとも思った。そうか今日だったのか。てかまって誰もいないんですけど。こんなすごい景色をみてるの自分だけなんですけど。幻想的にも程がありませんか。
とにかく今目の前にある満開の桜を逃すまいと、幻想の中心部へぐんぐん近づいていくと、満開の桜の木の周辺でふわふわ舞っていた雪のように見えた花びらは、カラスが鳩を小突き回し毟り取っていた羽だった。道路の真ん中で、死んだ鳩の羽を毟っては散らし毟っては散らし、それを春の風が舞いあげて、桜とともにこの世界を舞っていた。
人生は、いつもそのくらいの残酷を突きつけてきますよね。春だなぁ。